1.土地調査事業に対する韓国人の主張
韓国人は、土地調査事業によって日帝に40%の土地を収奪され、これによって自作農から小作農に転落した農民や、小作していた土地を追われた農民が生じたと主張しています。もし韓国人が主張する通りだったら、どのような法的問題が生じるのでしょうか?
これについて、「権利の上に眠る者を法は保護しない」、「物権は債権を破る」、「公示の原則」という法解釈上の一般原則を用いて説明します。また、その前提として、「物権」と「債権」の違いを説明しておきます。
2.「物権」、「債権」とは?
「物権」とは、物を全面的に支配する権利で、所有権が代表的なものです。「債権」は、契約に基づいて他者に何かをしてもらうことを要求することのできる権利で、不動産の賃借権を考えると分かり易いと思います。
ここで、小作権については、一般の小作権(債権)と永小作権(物権)とがありますが、永小作権は、小作のために土地を使用することに対してだけ土地を支配できる制限物権です。
3.「権利の上に眠る者を法は保護しない」とは、?
この原則は、権利者であっても、自らその権利を行使しない限り、法がその権利を保護することはないという原則です。
具体的な例として、税法にこの原則の適用例が見られます。例えば、日本では、年間10万円を越える医療費がかかった場合に、その越えた額の分だけ医療費控
除が受けられ、所得税が軽減されることになります。しかし、何もしないで医療費控除が受けられる訳ではありません。医療費控除を受けるためには、医療費が
かかったことを申告期限までに申告する必要があります。申告期限までに医療費の申告をしなかった場合には、実際に10万円を超える医療費がかかっていたと
しても、税金が軽減されることはないのです。
4.「物権は債権を破る」とは?
物権は、債権に優先する効力を持つという原則です。
例えば、車の所有権(物権)を有するAが、Bに対してその車を貸す約束をしたとします。Bは、その車に対して賃借権(債権)を取得します。しかし、Aは、
Bに貸す前に車をCに売ってしまい、Cが新たにその車の所有権(物権)を取得しました。この場合、Bが車を借りようとしても、BはAに対して賃借権(債
権)を取得しただけであってCに対して賃借権(債権)を有する訳ではないので、Cは、自己の所有権(物権)に基づいて、Bが車を借りる権利を無視すること
ができます。
5.「公示の原則」とは?
物権は、その権利者を一般的に示さなければならないものとする原則です。不動産の所有者を登記する登記制度を考えると分かり易いでしょう。一般の小作権で
はない永小作権は物権になりますので、土地の永小作権は、所有権とともに登記されることになります。但し、永小作権の登記手続きは、土地の所有権者が行う
必要があり、永小作権者が永小作権の登記手続きを行うことはできません。
もっとも、永小作権者であるAは、その永小作権を設定した所有権者Bに
対して、登記されていなくても永小作権を主張できるのですが、それ以外の第三者に対しては永小作権を主張することができません。CがAから土地を購入した
場合、Cが永小作権を設定した訳ではないので、Aは、登記されていなければ永小作権をCに対して主張することができなくなります。
6.土地調査事業への上記の原則の適用例
(1)土地調査事業に関して、申告のあった土地につ
いては、99%以上が申告されたまま所有権が認められています。申告の通りに所有権が認められなかった土地は、非常に僅かなものであるので、元々大韓帝国
の国有地等に対して申告がなされたか、同じ土地に対して複数の者から申告があったような事例であると思われます。つまり、自ら権利を行使した(自己が土地
の所有権者であるという申告をした)者に対しては、正当な法律上の保護を与えていますね。
(2)土地調査事業に対して、申告されなかった土地(つまり、所有権が行使されなかった土地)は、総督府の土地となりました。しかし、土地の所有権者に権利行使する機会はきちんと与えています。従って、申告されずに総督府の所有となった土地が40%に達したとしても、それは、「権利の上に眠る者を保護しない」という法原則に基づいた結果です。何らの法的問題もありません。
(3)申告を行わずに自作農から小作農に転落した農民は、権利の上に眠っていたのですから、保護されなくて当然です。総督府から土地を譲り受けた者が元の自作農に対して小作料を要求したとしても、その者は、総督府から譲り受けた土地の所有権を正当に行使しただけです。従って、自作農から小作農に転落した農民がいたとしても、何ら法的問題はありません。
(4)
小作していた土地から追われた農民についてはどうでしょうか? これは、小作権を与えていた土地の所有権者が申告を行わなかったため、新たな所有権者にそ
の土地から追い出されてしまったということになりますね。しかし、新たな所有権者は、「物権は債権を破る」という原則に従って自己の権利を正当に行使した
だけのことです。元の小作権が物権である永小作権であったとしても、その登記がされていない以上は新たな所有権者に対して永小作権を主張することはできま
せんので、新たな所有権者の正当な権利行使によって土地から追われただけのことになります。従って、小作していた土地から追われた農民がいたとしても、何らの法的問題はありません。
もっとも、このように小作していた土地から追われた農民は、確かに可哀相な面はあります。しかし、その場合は、恨むべき相手が間違っています。恨むなら、土地の所有権を申告しなかった(つまり、土地の所有権を行使しなかった)元の土地の所有者です。
7.結論
土地調査事業に関しては、韓国人が何を言っても無駄です。